「過払い金」債務者の建物の抵当権の行方

平成
負債
破産

主文

原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人三神武男の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 昭和三八年、Dはその所有する第一審判決添付物件目録記載1、2の不動産を、また上告人はその所有する同目録記載3ないし11の不動産を、いずれもE工業株式会社(後にF建設株式会社に商号変更。
以下「F」という。)に対し、譲渡担保契約に基づきその所有権を移転してその旨の登記を経由した上、右各不動産(以下併せて「G物件」という。)の管理を委託した。
その後、同三九年、D及び上告人は、Fに対し、G物件の右所有権移転登記の抹消登記手続及び同物件の返還を求めて訴え(東京地方裁判所同三九年(ワ)第三四三七号事件)を提起した。
ところが、右訴訟の係属中、Fが破産宣告を受けたため、Hがその破産管財人に選任されて右訴訟を承継した。
2 同破産管財人は、昭和四四年、I株式会社(同五〇年に株式会社J技研に商号変更。
以下「J技研」という。)に対し、Fが右破産宣告前にしたG物件の譲渡を否認し、その所有権移転登記につき否認の登記手続を求める訴え(東京地方裁判所同四四年(ワ)第六四三〇号事件)を提起して、これに勝訴し、同四九年七月二二日、同事件の確定判決を登記原因として右物件につき否認の登記を経由した。
その後、前記1の同三九年(ワ)第三四三七号事件について、同五一年一二月二四日、D及び上告人と同破産管財人との間で、G物件の所有権をすべて上告人に移転する旨の訴訟上の和解が成立し、同五二年六月二九日、その旨の所有権移転登記が経由された。
3 ところで、J技研は、前記2の昭和四四年(ワ)第六四三〇号事件の判決確定前であっていまだG物件の所有名義を有していた同四七年九月六日、被上告人に対する二億二〇〇〇万円の債務を担保するため同物件に抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し、同時に自己の所有する第一審判決添付物件目録記載12、13の物件(以下「K物件」という。)及び同目録記載14、15の物件(以下「L物件」という。)をも前記債務の共同担保として提供してこれに抵当権を設定し、いずれもその旨の登記を経由した。
しかるに、被上告人は、前記否認権の行使によりG物件の所有権がFに帰属した後の同五一年一二月二一日、K物件に対して有していた前記抵当権を放棄した。
なお、同破産管財人は、同四九年、被上告人を相手にG物件に対する本件抵当権の設定を否認し、同設定登記につき否認の登記手続を求める旨の訴えを提起したが、同訴訟で同破産管財人の敗訴の判決が確定した。
4 被上告人は、昭和五三年、上告人が所有権を取得したG物件及びJ技研が所有するL物件について競売を申し立て、執行裁判所は、同五五年三月二四日、その競売手続において、被上告人に対しG物件の競売代金から三四五四万三一八一円を交付し、物件所有者であった上告人に対し剰余金として二六五九万九五五九円を交付した。
二 原審は、右事実関係の下において、上告人の被上告人に対する主位的請求、すなわち、K物件の昭和五一年一二月当時の価格が一億四〇〇〇万円であるのに、被上告人が同物件に対する抵当権を放棄した結果、上告人は同物件に対する抵当権に法定代位することができなくなり、そのため代位による償還が受けられなくなった限度で責任を免れた(民法五〇四条)ものであるにもかかわらず、被上告人がG物件の競売代金から三四五四万三一八一円の交付を受けたのは、法律上の原因なくして不当にこれを利得したものであるから、右同額の金員の返還を求める旨の不当利得返還請求は、次の理由によりこれを棄却すべきであるとした。
1 G物件に対する抵当権は、上告人が自己所有の物件について設定したものではなく、J技研がその所有する物件について自己の被上告人に対する債務の担保のために設定したものである。
上告人の立場は、他人がその債務の担保として自己所有の不動産につき抵当権を設定したその目的不動産の第三取得者に当たるというべきである。
2 民法五〇四条の規定は、同法五〇〇条所定の法定代位権者がある場合において、債権者の故意又は懈怠による担保の喪失又は減少により法定代位権者が償還を受けられなくなり、その当時法定代位権者が有していた代位により得られるべき利益を害されることになったときに、償還が受けられなくなった限度でその責任を免れることとして、法定代位権者を保護することを目的として設けられたものであるところ、抵当不動産の第三取得者は、取得前の債権者の担保権の喪失又は減少については、これにより何ら右のような利益を害されるものではないから、右規定に基づく免責を主張することはできないものと解すべきである。
3 上告人は、被上告人がK物件の抵当権を放棄した後に共同担保の抵当不動産であるG物件の所有権を取得したものであるから、被上告人に対し、前記規定による免責を主張することができない。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
債務者所有の抵当不動産(以下「甲不動産」という。)と右債務者から所有権の移転を受けた第三取得者の抵当不動産(以下「乙不動産」という。)とが共同抵当の関係にある場合において、債権者が甲不動産に設定された抵当権を放棄するなど故意又は懈怠によりその担保を喪失又は減少したときは、右第三取得者はもとより乙不動産のその後の譲受人も債権者に対して民法五〇四条に規定する免責の効果を主張することができるものと解するのが相当である。
すなわち、民法五〇四条は、債権者が担保保存義務に違反した場合に法定代位権者の責任が減少することを規定するものであるところ、抵当不動産の第三取得者は、債権者に対し、同人が抵当権をもって把握した右不動産の交換価値の限度において責任を負担するものにすぎないから、債権者が故意又は懈怠により担保を喪失又は減少したときは、同条の規定により、右担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった金額の限度において抵当不動産によって負担すべき右責任の全部又は一部は当然に消滅するものである。
そして、その後更に右不動産が第三者に譲渡された場合においても、右責任消滅の効果は影響を受けるものではない。
これを本件についてみるのに、Fは、G物件につき確定判決を登記原因として前記否認の登記を経由した結果、抵当不動産の第三取得者となったものであるところ、被上告人が昭和五一年一二月二一日、G物件と共同担保の関係にあるK物件の抵当権を放棄した結果、これによって、Fは本件抵当権につきK物件から償還を受けることができなくなった金額の限度においてその責めを免れたことになり、その後右免責の効果の生じたG物件を取得した上告人も、被上告人に対し、右免責の効果を主張することができることになる。
したがって、被上告人が、前記競売手続において、G物件の競売代金から、右免責により減縮された責任の額を超えて金員の交付を受けた場合においては、被上告人は法律上の原因なくして右金員を不当に利得したことになる。
してみると、これと異なり、上告人は被上告人に対し右免責の効果を主張することができないとした原審の判断は、民法五〇四条の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
そこで、右免責の額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官坂上壽夫の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官坂上壽夫の意見は、次のとおりである。
私は、多数意見の結論には賛成するが、その結論に至る説示には同調することができない。その理由は、次のとおりである。
債権者が故意又は懈怠により共同担保の目的たる不動産(甲不動産)に設定された抵当権を放棄するなど民法五〇四条に規定する担保の喪失又は減少の事実があったときは、これによって償還を受けることができなくなった金額の限度において、残余の抵当不動産(乙不動産)によって負担すべき責任の全部又は一部は消滅し、その責任消滅の効果は、その所有権がその後第三者に譲渡された後においても当然には影響を受けるものではないから、同条の規定により、原則として、右担保の喪失又は減少時における乙不動産の所有者(物上保証人又はその第三取得者)はもとよりのこと、乙不動産のその後の譲受人も、債権者に対して同条に規定する免責の効果を主張することができる、と解する点は多数意見と同様である。
しかしながら、乙不動産の譲受人がその取得当時、右担保の喪失若しくは減少の事実を知り又は知り得べかりしとき(乙不動産の共同担保目録中、甲不動産に関する部分の抹消登記が経由されているときは、当然担保の喪失又は減少の事実を知り得べかりしときに当たる。)は、右譲受人は、右担保の喪失又は減少があったことを前提にして取引に及んだものとして、民法五〇四条に規定する免責の効果を主張することができないとするのが衡平の理念に合致するから、このような譲受人は、債権者に対して同条に規定する免責の効果を主張することができないと解するのが相当である。
また、このように解さないと、債権者は、右譲受人からの同条所定の免責の主張をおそれる余り、いつまでもいわゆる過剰担保の抱え込みを続けることを余儀なくされ、ひいては担保物件の有効な利用にも支障を来すことになる。
これを本件についてみるのに、Fは、G物件につき確定判決を登記原因として前記否認の登記を経由し、抵当不動産の第三取得者となったものであるところ、被上告人が、昭和五一年一二月二一日、G物件と共同担保の関係にあるK物件の抵当権を放棄した結果、Fは、これによって本件抵当権につきK物件から償還を受けることができなくなった金額の限度においてその責めを免れたことになるが、その後、G物件の所有権を取得した上告人が右免責の効果を主張することができるか否かについては、上告人の右取得当時、上告人が右K物件の抵当権放棄の事実を知っていたか否か又は知り得べかりし事情があったか否か(G物件の共同担保目録中、K物件に関する部分の抹消登記が経由されていたときは、当然右抵当権放棄の事実を知り得べかりしときに当たる。)によって結論を異にすることになる。
してみると、これと異なり、上告人は被上告人がK物件の抵当権を放棄した後に共同担保の抵当不動産であるG物件の所有権を取得したのであるから被上告人に対し当然に右免責の効果を主張することができない、とした原審の判断は、民法五〇四条の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
したがって、この点の違法をいう論旨は、理由があることに帰し、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
そして、本件においては、前記のとおり、上告人がG物件の所有権を取得した当時、K物件の抵当権放棄の事実を知っていたか否か又は知り得べかりし事情があったか否かについて原審に更に審理を尽くさせる必要があり、右放棄の事実を知らず又は知り得べかりし事情がなかった場合に、初めて多数意見と同様に、原審において、本件免責の有無及びその額について審理をする必要が生ずることになる。
以上の理由により、原判決を破棄して、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

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